「上の階がうるさすぎて、もう警察に通報するしかないのかな」
「そもそも、騒音で通報して警察は動いてくれるの?」
このように悩んでいる方から、私共はこれまで600人以上のご相談をお受けしてきました。騒音で警察に通報するかどうかの判断を誤ると、状況は良くなるどころか悪化してしまいます。
この記事では、通報してよい場合の線引きと通報後の流れ、通報時の注意点を解説します。あわせて、通報だけでは騒音が解決しない理由と、根本から解決するための手順もお伝えします。
結論からお伝えすると、今まさに鳴っている耐えがたい騒音であれば、遠慮せずに110番通報して大丈夫です。ただし、通報の前に知っておきたい前提があります。
警察には「民事不介入」という原則があります。これは、個人同士のトラブルには基本的に踏み込まないという考え方のことです。そのため、どんな騒音でも警察が動いてくれるわけではありません。
判断の分かれ目は、その音が度を越えているかどうかです。深夜に大音量の音楽を流し続けている、怒鳴り声や物が壊れるような音がする、といったケースが当てはまります。このように明らかに常識の範囲を超えた音であれば、ためらわずに通報してよい状況といえます。
一方で、足音や家電の動作音など、生活音の範囲にとどまる騒音は、警察が動く対象になりにくいのが実情です。
困っている音がどちらに当てはまるのか、一度整理してみてください。明らかに度を越えた音なのか、それとも昼間の生活音の範囲なのか。音の発生源をきちんと特定できているかどうかも、大切なポイントです。
ここが曖昧なまま通報しても、警察は動くことができません。反対に、状況がはっきりしているのであれば、迷う必要はないということです。
今この瞬間には音が鳴っていない場合や、そもそも通報すべきか迷う場合には、警察相談専用電話の「#9110」を使う方法もあります。専門の相談員が対応してくれるため、緊急ではないけれど相談しておきたいというときに役立ちます。
通報してよいと分かっても、通報後に何が起きるのかが見えていなければ、電話をかけるのはためらわれるものです。先にお伝えすると、1回目の通報で相手が罰せられることは、まずありません。
騒音は、軽犯罪法という法律に触れる可能性がある行為です。ただし、この法律の条文には「公務員の制止をきかずに」という条件が含まれています。
つまり、駆けつけた警察官が「やめてください」と制止し、それでもなお音を鳴らし続けたときに、はじめて成立し得るということです。そのため実際には、1回目の臨場(警察官が現場に来ること)は注意だけで終わるケースがほとんどです。
注意だけで終わったとしても、通報が無駄になるわけではありません。「警察が来て注意をした」という事実そのものが、記録として残るからです。
この記録は、その後に警察を再び呼ぶときや、管理会社・管理組合に動いてもらうときの材料として活用できる場合があります。
過去には、騒音によって睡眠障害などの健康被害を与えたとして、傷害罪が認められたケースもあります。ただし、長期間にわたって意図的に騒音を出し続けるなど、かなり悪質なケースに限られます。認められるのは非常に稀なことだと考えておきましょう。
通報すると決めたら、気をつけてほしいポイントが2つあります。事実を具体的に伝えることと、匿名の限界を正しく知っておくことです。
110番につながると、最初に「事件ですか、事故ですか」と聞かれます。ここでは「騒音の被害です」と答えれば問題ありません。
その後は、必要なことを警察の方から尋ねてくれます。「いつから」「どこで」「どんな音が」の3つを答えられるようにしておけば、慌てずに済むはずです。
たとえば、「午前1時20分から、真上の202号室で、大音量の音楽と複数人の騒ぎ声が40分以上続いています」といった伝え方です。時間、場所、続いている長さの3つが揃うと、対処すべき事案として扱われやすくなります。
通報したことを相手に知られたくないため、匿名で通報したいと考える方も多いでしょう。前提として、匿名での通報は可能です。名前を言いたくなければ、言わなくてもかまいません。
匿名だからといって、対応が雑になることはありません。また、警察官には守秘義務(仕事で知った秘密を漏らしてはいけない義務)があるため、通報者が誰かを相手に伝えることもありません。そのうえで、匿名には2つの落とし穴があります。
1つ目は、匿名にすると警察が後から追加の確認を取れなくなることです。継続的に対応してほしい場合には、かえって不利に働くことがあります。そこで、「名前は名乗りますが、相手には絶対に伝えないでください」とお願いする伝え方が、最も現実的です。
2つ目は、特に大切な点です。警察が名前を漏らさなくても、状況から相手が推測してしまうことはあります。日頃から直接苦情を伝えていた場合や、口論になった直後に通報した場合は、匿名は成立しないものと割り切ってください。
警察に通報する場合でも、並行して進めてほしいことがあります。それは、音を数値として記録し、第三者に相談することです。
警察への通報は、今発生している音を止めるためのものです。それとは別に、二度と騒音が発生しないようにするための手を打つ必要があります。
警察が現場に来ても、実際の対応は事実を確認し、相手に口頭で注意するところまでがほとんどです。検挙や書類送検にまで至るのは、ごく稀なケースといえます。これは警察が手を抜いているからではなく、制度がそうなっているためです。
つまり、警察は「その場を止める」ことはできても、「二度と起こらないようにする」ところまでは踏み込めません。根本的に解決したいのであれば、別の手を打つ必要があるということです。
最初に取り組みたいのは、気になる時間帯の音を測り、数値として記録することです。どのくらいの大きさの音が、どの時間帯に、どれくらいの頻度で、どのくらいの長さで鳴っているのかを残していきます。
特に、音の大きさと頻度の2つをセットで残しておくことが大切です。なお、測り方が適切でないと、データの信憑性が下がってしまう点には注意が必要です。
記録が取れたら、そのデータを持って第三者に相談します。相談先は、住まいの形態によって変わります。
賃貸の場合は、管理会社や大家さんが相談先です。注意文書を出したり、個別に訪問したりしてもらえるほか、それでも改善しなければ契約更新の話にまで踏み込めます。契約という切り札を持っているのは、管理会社や大家さんだけです。
分譲マンションの場合は、管理組合に相談します。管理組合は、規約に基づいて注意や勧告を行うことができます。理事会の議題に上げてもらえれば、その記録も残ります。
一戸建ての場合や、別の建物から聞こえてくる音の場合は、自治体の相談窓口が相談先です。ただし、自治体の対応に強制力はありません。近隣の生活騒音は、法律の規制対象から外れているためです。
それでも、自治体から一声かけてもらうだけで騒音が止まるケースはあります。条例でカバーされている地域もあるため、まずは窓口に確認してみてください。
データが必要なのは、管理会社や管理組合、自治体も、根拠がなければ動けないからです。「うるさいんです」という主観的な訴えだけでは、対処すべきレベルなのかどうかを判断できません。
一方で、「深夜1時台に、最大62デシベルの音が、40分間で18回」というデータがあれば、誰が見ても同じ意味として伝わります。数値は、立場の違う人同士の共通言語になるということです。
客観的なデータがあれば、騒音が我慢の限界を超えていることを証拠として示せます。法律の世界では、この「我慢すべき限度」のことを受忍限度と呼びます。
今日からできることとして、まずは今夜、音が鳴った時刻をメモに残してみてください。そのうえで、その音がどのくらいの大きさなのかを一度きちんと測り、数値を持って第三者に相談しましょう。
同じ相談でも、材料があるかないかで、返ってくる答えはまったく変わります。
今まさに鳴っている度を越えた騒音であれば、警察に通報してかまいません。ただし、警察には民事不介入の原則があり、生活音の範囲の騒音は対象になりにくい点に注意が必要です。通報する際は、時間・場所・続いている長さを具体的に伝え、匿名の限界も理解しておきましょう。
警察への通報でできるのは、その場の騒音を止めるところまでです。二度と騒音が起きないようにするには、音の大きさと頻度を記録し、管理会社や管理組合、自治体などの第三者に相談することが欠かせません。
騒音の問題は、順番を間違えなければ、打てる手が残っていることがほとんどです。一人で我慢を続けず、今夜のメモから始めてみてください。